被相続人が資産ともに負債を残して死亡した場合はどうなるのでしょうか?
結論としては、プラスの資産と異なって相続人間で相続分に従って自動的に負債を負担することが原則になりますが、それゆえ対債権者との間で気を付けなければならないこともございます。以下事例の検討も踏まえつつ解説します。
CASE.1
被相続人Aに相続人として妻Bと子2人(CとD)がおり、資産は4000万円あるが債権者Xに対する借り入れが2000万円ある場合どうすればよいのでしょうか?(なお、本記事では一般的によく見られる可分債務を扱い、不可分債務は扱いません)
CASE.2
被相続人Aに相続人として妻Bと子2人(CとD)がおり、資産は相続対策のために建築したアパート(時価1億円)とアパート建築ローン9000万円がある。Aが遺言を作成せず死亡しました。アパートと負債は全て妻が相続するように遺産分割協議をしたいのですが注意する点はありますか?
債務は原則として法定相続分に従って当然に分割承継されること
まず当然ですが、相続人は被相続人の資産のみならず負債も相続します(民法896条)。
このように相続人は負債を承継しますが、負債の相続は、遺産(プラスの財産)と同様に遺産分割手続きが必要でしょうか。
結論から言えば、負債に関しては、プラス財産と異なり被相続人の債務は法律上当然に相続分に従って自動的に分割され各相続人に帰属することになります。
そして、基本的に法定相続分に従って負債を受け継ぐことになりますので、CASE.1の場合、特段の手続きなしに妻BはXに対する借金2000万円のうち1000万円を、他方子Cと子DはXに対する借金をそれぞれ500万円ずつ負担することになります。そして、債権者は、相続後ただちに各相続人に対し支払いの請求ができるということになります。
債務の承継に関して相続分の指定があるとき
ところで、Aが遺言で「すべての財産と負債を妻Bに相続させる」などの遺言をしていた場合はどうなるのでしょうか?
CASE.1の場合において、もし「資産も負債も全てBに相続させる」旨の遺言があった場合、BCDの相続人間では妻BがXに対する負債を負うことになります。
しかし、民法902条の2が「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる」と定める通り、Xは、そのような遺言とは無関係に、相変わらずCDに500万円ずつ請求することができます。つまり、内部的な取り決めは相続人間では有効ですが債権者との関係では、対抗することができません。
共同相続人間で債務を遺産分割協議の対象への組み入れ
債務は、上記で説明の通り共同相続人間で法定相続に従って分割されますが、遺産分割協議にあたり、共同相続人が同意すればこれを遺産分割協議に取り込んで分割協議の対象とすることができます。
CASE.2で、アパート建築ローン9000万円を妻Bが返済するよう遺産分割協議をすることは可能です。
もっとも、遺産分割協議において、法定相続分と異なる取り決めをしたときであっても、債権者は、それを無視して法定相続分に従って各相続人に請求することは可能です。つまり、CASE.2ではXが子CとDにそれぞれ9000万円×4分の1=2250万円を請求できます。
このような事態にならないように、遺産分割前から債権者と協議して、債務をすべて承継するものが債務引き受けを行って遺産分割協議を成立させることが通常です。このように債務の承継に関して遺産分割協議を行う場合には、債権者との交渉も忘れず行う必要があります。
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