遺言を探すのは面倒なこともありますが、遺言の存在を知らずに遺産分割協議をしてしまったがその後に遺言が出てきたという場合、どのようなことが生じるのでしょうか?
この点は、最高裁判例があります(最判平成5年12月16日判例タイムス842号124頁)。
この判例は、相続財産に属する特定の土地に関して被相続人がおおよその面積と位置を示して分割した上それぞれを相続人3名に相続させる旨の分割方法を定めた遺言が存在したが、その遺言の存在を知らずに一人の相続人が土地全部を相続する旨の遺産分割協議を成立させたケースで、後に遺言書の存在が明らかになり、遺産分割協議の無効が主張された事例です。
同裁判例は、「相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定められているときは、その趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重されるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重しようとするのが通常であるから、相続人の意思決定に与える影響力は格段に大きい」「遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、本件土地を(ある相続人)が単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高い」として、もし相続人が遺言の存在を知っていれば、遺産分割をしなかった蓋然性が可能性が高い場合は錯誤等により取消の対象となる旨判断をしています。
なお、遺言の中に、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨のいわゆる特定財産承継遺言が存在する場合、遺産分割を待たずに当然その資産は特定の相続人に移転するので、錯誤の問題以前に遺産分割協議はやり直しになってしまいます(潮見佳男「詳解相続法」第2版348~349頁)。
以上みてきた通り、遺言の存在を見落として遺産分割をした場合、せっかく合意したのにのちにやり直しになる可能性もあります。そのため、遺産分割協議に先駆けて遺言の確認をした方が良い場合もございます。
先ほどのケースと異なり、相続人全員が遺言の内容を知りつつ遺言の内容と異なる遺産分割協議をした場合、遺言に反するとして無効になるのでしょうか?
この場合は協議は有効です。遺言があったからと言って必ずしもそれに従った遺産の分割を行う必要まではありません。被相続人のに関する意思表示がなされていても、最終的には相続人間の合意で遺産の帰属を決定することができるのです。
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