コラム

特別受益について(①学費、②土地建物無償使用、③生命保険、④持参金、⑤債務肩代わり弁済の特別受益性)

遺産分割や相続のご相談をお受けしているといわゆる「特別受益」について良くご質問を頂きます。そこで概要が判るように纏めます。

特別受益とは何か?

相続人の中に、被相続人から遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合、相続に際してその相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば相続人間で不公平が生じてしまいます。そこで、特別な受益(贈与等)を相続分の前渡しとみて、計算上贈与財産を相続財産に加算して(「持戻し」)、相続分を算定する方法です。

具体例

被相続人Aの相続人として子B、Cがおり、死亡時の遺産が2000万円でした。生前にAがBに2000万円を贈与していたとします。
通常遺産分割では、死亡時の遺産が2000万円ですので、A・Bともに1000万円ずつ取得することになります。
これでは、Bが結局3000万円、Cが1000万円の取得となり不公平になります。

そこで、生前贈与2000万円を計算上相続財産に加算して(持戻し)、相続財産は4000万円と考えれば、B・Cともに2000万円取得することになり、Bは既に2000万を受け取っているので、遺産分割ではBが0、Cが2000万円を取得することになり、公平な分配が実現されます。

特別受益の根拠となる法律

民法903条

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

上記条文の通り、①遺贈(すなわち死亡を条件に贈与を受けたとき)、②婚姻若しくは養子縁組のため生前贈与を受けたとき、③生計の資本として贈与を受けたとき、特別受益の問題となります。

具体的によく問題となるケース

  1. 学費
  2. 被相続人所有の建物の無償利用
  3. 被相続人所有の土地上に相続人が建物を建てて無償で使用していたとき
  4. 生命保険
  5. 持参金・結婚支度金・結納金・挙式費用
  6. 債務の肩代わり弁済

具体例の検討

1.学費と特別受益について

具体例に即して検討します。

Q1

兄だけが大学に行って他の相続人は高校卒業で就職しました。学費は特別受益に該当しないのでしょうか? 兄だけが通常の大学ではなく学費が高額な私学の医学部に進学していた場合はどうか?

A1

通常の大学の授業料を支出することは特別受益といえないことが多いと考えられますが、高額な私学の医学部の授業料を支出することは特別受益に該当する可能性も十分あると考えられます。

解説

被相続人の資産や社会的地位にもよりますが、昨今の大学進学率等を考えると、相続人である子に対しその資質に応じて高等教育、大学教育を受けさせることは扶養義務の範囲内とされる場合が多いと考えられます。

もっとも、高額な医学部の学費の援助を行うことは、遺産の前渡しと評価でき特別受益に該当する可能性も十分あると考えられます。

2.被相続人建物の無償使用と特別受益

具体例に即して検討します。

Q2

はなくなった母名義の建物に長年無償で弟の妻や子供と住んでいました(母は別居していました)。弟はその分家賃がかからなかったのですから家賃相当分を遺産の前渡しとして特別受益の主張をしたいのですができますか?
母の要望で弟が同居していた時はどうですか?
母の介護や生活支援で弟が同居していた時はどうですか?
母が弟に家を利用させたために自らは賃貸住宅を借りて遺産が減少したときはどうですか?
もともと賃借人がいた建物を退去してもらい弟に使用させていた場合はどうでしょうか?

A2

一般的には特別受益の主張はむつかしいと考えられています。
もっとも、元々賃貸物件であったものを賃借人に退去させて相続人を住まわせた場合や、あくまで私見ですが、被相続人が唯一の建物を相続人使用させて、自らは賃貸物件を借りて遺産が減少した場合など特別受益に該当する場合があると思われます。
但し、この場合であっても持戻免除の意思表示の問題は残ります。

解説

建物の無償使用は恩恵的な要素が強く、また被相続人にも建物の無償使用させることを遺産の前渡しとする意思がないのが通常であるから特別受益に該当しないと一般的に考えられます。

特に、被相続人の要望や被相続人の介護や生活支援で同居していた時は、建物を主に用いていたのは被相続人であったとか(「相続人は占有補助者に過ぎなかった」)、相続人には特別な利益がなかったとされ、より特別受益に該当しないと判断されています。

もっとも、元々賃貸物件であったものを賃借人に退去させて相続人を住まわせた場合、あくまで私見ですが、被相続人が唯一の建物を使用させて、自らは賃貸物件を借りて遺産が減少した場合など、建物の無償使用と遺産の減少に因果関係がある場合、特別受益に該当する場合があるのではないかと考えます。

3.被相続人所有土地の無償使用

具体例に即して検討します。

Q3

兄はなくなった父名義の土地上に兄が建築費用を支出して兄名義の建物を建築して長年無償で住んでいました(父は別居していました)。
土地を利用する権利や家賃相当分を遺産の前渡しとして特別受益の主張をしたいのですができますか?

A3

無償で土地を利用する権利を使用貸借と言いますが結論として特別受益と取り扱わない実務となっています。

また、被相続人死亡前の家賃相当額についても基本的には特別受益の主張はむつかしいと言えます。もっとも、元々賃貸土地であったものを賃借人に退去させて相続人に利用させた場合や、あくまで私見ですが、被相続人が唯一の土地を使用させて、自らは別の賃貸物件を借りて遺産が減少した場合など特別受益に該当する場合があると思われます。

解説

更地に使用貸借を設定すると土地の価格が1割~3割下落すると言われているものの、相続人間の遺産相続では、更地に建物を建てた相続人が土地を取得することが多く、結局更地として評価すれば足ります。結局特別受益として扱わないことがほとんどかと思われます。

また、相続開始前の賃料相当額が特別受益に当たるかについては、土地の無償使用は恩恵的な要素が強く、また被相続人にも土地の無償使用させることを遺産の前渡しとする意思がないのが通常であることから特別受益に該当しないと一般的に考えられます。

もっとも、元々賃貸土地であったものを賃借人に退去させて相続人を住まわせた場合や、あくまで私見ですが、被相続人が唯一の土地を使用させて、自らは賃貸物件を借りて賃料支払により遺産が減少した場合など、遺産の増減と土地の無償使用に因果関係がある場合特別受益に該当する場合があると思われます。

4.生命保険と特別受益

基本的には特別受益に該当しませんが、保険金額が遺産額と比して多額であるなど、相続人間で不公平が生じる場合特別受益とみなされる場合もあります。
この点は、以前の記事:生命保険は特別受益に該当しますか?(遺産相続でよくあるご質問)で記載した通りですのでご覧ください。

5.持参金・結婚支度金・結納金・挙式費用

(1) 持参金・結婚支度金

持参金・結婚支度金は、「婚姻若しくは養子縁組のための贈与」として特別受益に当たると考えられています。最も、金額が少額で、被相続人の資産および生活状況に照らして扶養の一部と認められない場合は特別受益に該当しないと考えられます。

(2) 結納金

一般的には特別受益に該当しないと考えられていますが、特別受益に該当すると判断した裁判例もあります。

(3)挙式費用

一般的に特別受益に該当しないと考えられています。

6.債務の肩代わり弁済

具体例に即して考えます。

Q6

亡くなった父は父が亡くなる15年前に生前妹が作った借金1000万円を立て替えて弁済しました。これは特別受益に該当しないのでしょうか?

A6

特別受益として扱われる場合と求償権が存在するとして特別受益として扱う必要なく立替分を考慮すれば足りる場合があります。

解説

肩代わり弁済は無償の経済的援助ですので贈与と同視でき特別受益の問題となりえます。
もっとも、肩代わり弁済により被相続人が求償債権を取得し、共同相続人が求償債権を相続した場合、特別受益の問題にはならず、肩代わり弁済を受けた相続人に対する債権として扱えば足りることになります。

最後に

以上で特別受益についての概要をご説明しました。
次の記事で「持戻免除」について検討したいと思います。