遺産相続

葬儀費用の負担について

Q,相続事件においては相続人の一人や相続人以外の方が葬儀費用を支出し、遺産分割事件や裁判でおいてその負担が問題になるケースが良くあります。
このような場合どのように解決していけばよいのでしょうか?

葬儀費用は誰の負担か

葬儀費用の負担には決まった法律や判例はなく諸説ある状況です。

判例の状況をみると、
①相続人全員で負担するという説(福岡高裁昭和40年5月6日)
②相続財産の負担とするという説(盛岡家裁昭和42年4月12日)

という説があります。

しかし、現在は、
③葬儀主催者の負担となるという説
が最も有力です(東京地裁昭和61年1月28日、名古屋高裁平成24年3月29日)。

ここで言う葬儀主催者とは形式上の「喪主」という意味には捉えられていません。

今日においては昔と異なり、葬儀は葬儀会社や宗教法人等との契約のもと実施されることが一般的であることから、「自己の責任と計算において、葬式を準備し、手配等して挙行した実質的な葬式主宰者を指す」とされています(東京地裁昭和61年1月28日判決)。
簡単に言えば、取引法の観点から契約当事者となったのはだれかとの観点から判断されるものです(潮見佳男「詳解相続法」第二版164頁参照)。

葬儀主催者負担説を採った、名古屋高裁平成24年3月29日の裁判例を詳細にみると「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。」との理由から葬儀主催者負担説を採用しています。

葬儀主催者は葬儀費用を負担しなかった他の相続人たちに求償できるのか?

この点、上記の東京地裁昭和61年1月28日、名古屋高裁平成24年3月29日は求償を否定しています。しかし、これらの裁判例は、相続人以外の方が、被相続人の意向と無関係にあるいは、東京地裁の裁判例においては、相続人を排除して葬儀を行ったと言えるような事案であり、求償が否定されています。

事案によっては一律求償が否定されるものではないと考えられますので、ケースバイケースで検討していく必要があると言えます。

求償の是非に関して、潮見佳男「詳解相続法」第二版164頁から165頁において、「葬儀費用は、遺産分割の手続外で、被相続人との生前の委任に基づく事務処理費用償還請求・代弁済請求(民法650条1項・2項)または事務管理に基づく有益費用償還請求・代弁済請求(702条1項・2項)として相続人に対して請求すべきものである」とされており、求償が認められるとの見解を採っています。

葬儀費用として認められる範囲

では、葬儀費用とはどの範囲を指すのでしょうか?

当事務所で遺産分割調停や遺産の使い込みに関する不当利得返還請求訴訟を扱っていますと、相続人の方から、葬儀費用のみならず、四十九日、初盆、1回忌、三回忌なども葬儀費用として考慮するよう求められることがあります。これらも葬儀費用に該当するのでしょうか?

葬儀費用として認められるのは、一般的に、葬式場設営・僧侶や神主等の読経・火葬や墓標の費用等の、死者を弔うのに直接必要な儀式の費用とされています。
葬儀の出席者への飲食接待の費用は含まれないと見解がありますが、出席者の飲食接待費用が高額ではなく、通常行われている程度のものであれば葬儀費用に含まれると考えられています。

また葬儀費用として認められるのは、通夜と葬式当日の費用が中心で、四十九日や初盆あるいは一周忌等の法要の費用は含まれないとするのが判例です(東京地裁昭和61年1月28日)。

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