定期的に法律情報を発信しておりますが、本日は住宅ローンの問題について考えたいと思います。
オーバーローンとなっている住宅ローンを他の資産と通算できるのか判断がむつかしく、事件を取り扱っていても悩ましい時があります。
例えば、婚姻期間中に夫名義で自宅不動産を4000万円の住宅ローンを組んで購入したものの、夫婦が離婚することになった。別居時において、住宅ローンが3000万円残っており、不動産の時価は2000万円、夫には自宅以外に預貯金500万円の資産があり、妻には資産がないといった場合です。
この場合、夫が不動産を取得して住宅ローンを支払っていくとして、夫の住宅ローンを他の財産と通算できるのか(通算説)、それとも不動産と住宅ローンは別個に取り扱い他の資産と通算しないのか(非通算説)が問題になります。
通算できるとすると(通算説)、夫は、資産は不動産2000万円、預貯金500万円、負債が4000万円でトータルするとマイナス1500万円なので妻に対して分与する資産がないことになります。
他方、通算できない考え方は(非通算説)は、不動産のローンの支払は居住利益に向けられ、また、資産形成の側面もあることから住宅ローンの支払いは不動産取得者が負担するという考えですが、非通算説をとると、オーバーローンの不動産は財産分与の対象とならないので、財産分与対象財産は夫の預貯金500万円となり、夫は妻に250万円を分与することになります。
通算説と非通算説は、判例でも分かれています。
大阪高等裁判所平成19年5月31日決定は非通算説をとっていますが、大阪高等裁判所平成16年3月19日決定は通算説をとっています。
「離婚に伴う財産分与-裁判官の視点に見る分与の実務-松本哲泓著」では、基本的に非通算説の立場に立ちつつ、住宅以外の資産があって「基準時までに債務の完済が可能であり、かつ、これが期待できる場合には」通算できるとの見解に立っています。
しかしながら、大阪高等裁判所平成16年3月19日決定は、不動産の時価6890万円、住宅ローン8938万円、その他の夫の預貯金等3300万円で通算を認めています。
松本先生の「債務の完済が可能」とのファクターは、住宅ローンを完全に解消する必要があると読めますが、大阪高等裁判所平成16年3月19日決定ではオーバーローンを解消する他の資産があればよいということになりますので、どちらを指すのか判例との関係でよくわからないところがあります。
翻って、理屈で考えると、財産分与は別居時で資産を精算する制度ですので通算説が原則と思えます。
なぜなら、夫が離婚後住宅ローンを支払うのがきつくなり、自宅を任意売却すれば負債を通算できるのに、やむを得ず離婚後も住むことにすれば通算されないというのも不合理だからです。
もっとも自宅を取得する夫が転居もすることなく、また、一般的に同じ物件を賃貸するよりも安価な住宅ローンで居住利益を得ながら、妻に何も分与しないというのも不公平に思います。
結局は、取得した住宅の広さ、住宅ローン額、住宅の時価、夫の収入、妻の収入等で何が公平な解決なのかは、様々な夫婦で変わると思われますので、個々の案件で、夫婦相互にとって妥当な解決が何かという視点から考えていく必要があると思われますし、弁護士としては、色々な裁判例のファクターを拾いながら有利な解決に向けて主張を行っていく必要があると思います。
(最後に補足です)
なお、夫名義の不動産に妻と子供が別居後も住み続けることを希望しているものの妻には住宅ローンを返済する資力や収入がないといった場合にどのように解決するのかについては、既に色々な弁護士事務所のホームページに記載されていますので、この記事では特に深入りしません。
→簡単に触れると、協議や調停の場合は、妻に子供が中学卒業までなどの使用貸借(ただで住まわせる権利)を設定したり、妻に賃借権(妻が夫に賃料を支払う)を設定し、ローンは夫が支払っていく方法で解決することができます。裁判になると、妻に使用貸借を設定する判決も若干ありますが、例外的で、基本的に夫が不動産を取得することになります。
また、いつかこの問題についても考えてみたいと思います。