以前当事務所のコラムにおいて、離婚に伴う親権者の指定に関する画期的な裁判例として、千葉地裁松戸支部 平成28年3月29日判決をご紹介しました。
同裁判例は、母が幼少期に長女を連れて別居を開始して長女が母と5年間同居生活を送る一方、子と引き離された父は母の意向もあって長女と5年間で6回程度しか面会交流が出来ていないという事案でした。
第1審は、これまでの裁判例のように「現状維持の原則」(通常判決書では「子が母の元で監護養育されておりその監護体勢に特段の問題は認められない」というありがちな文言が記載される・・)を最優先するのではなく、父が親権者となった場合長女と母親が一年間に100日の面会交流をすることを許容するという「寛容性の原則」を優先して父を親権者と指定した非常に画期的とも言うべき裁判例でした。
これは、親権者を父としたほうが、長女が両親と会えるので長女が両親の愛を十分に受けることができ、他方、母は面会交流に積極的ではないので、長女の親権者を母とした場合両親の十分な愛情を受けて育つことができないということを重視したものと思われます。
これに対し、東京高裁は、報道によると(裁判例の詳細を入手できたわけではありませんが)、子が母の元で監護養育されておりその監護体勢に特段の問題は認められない旨の「現状維持の原則」を優先し、また、長女(9歳)が「母親と一緒に暮らしたい」と言っているという長女の意思を優先し、第1審を破棄し、親権者を母親と指定したようです。
東京高裁の裁判例は、「現状維持の原則」を重視するというこれまでの裁判例の流れを踏襲するもので、同枠組みの判断によれば、一度子を連れ出して別居を開始した親が極めて有利になってしまうと批判されています。
また、東京高裁の裁判例では「子の意思の尊重」も考慮しているようですが、母親と同居している子に「父と同居したい」と意見表明が出来るはずがなく、この点を重視することも問題があると思われます。
第1審の裁判例は、これまので判断を打ち破るもので非常に画期的でしたが、高裁の判断は従前通りの裁判例の流れに沿った判断といえるでしょう。
いずれにせよ、父親側が今回の判断に納得せず、最高裁に上告をするようなので今後の最高裁の判断が注目されます。