1.はじめに
当事務所の先般のブログ(「民事執行法の改正について(その1)」)において、改正民事執行法で新設された、金融機関からの債務者の預貯金口座の情報開示手続についてご説明しました。
実は、この部分は、以前から弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会において、弁護士会と協定を締結していた一部の金融機関(三井住友、ゆうちょ、三菱UFJ、みずほ…等)から開示がなされていた部分です。
そこで、この記事においては、民事執行法による預貯金口座開示手続と弁護士会照会による開示手続について比較を行いたいと思います。
なお、民事執行法の手続については、法令を参考にするほか、全国の執行実務に影響を与えている東京地裁民事第21部(民事執行センター・インフォメーション21)の情報を参考にしています。
2.それぞれの手続の特徴
- すべての金融機関が開示に対応
- 費用は、1つの金融機関あたり6000円程度(2つ以上の金融機関を同時申立てると2つめ以降は4000円程度になる)
- 開示したことは債務者に開示約1か月後に通知される(法208条2項、民事執行センター・インフォメーション21ウェブサイト)
- 弁護士でなくとも債権者本人で申立可能
弁護士会照会の開示手続
- 弁護士会と協定を締結した一部の金融機関のみ対応(三井住友、三菱UFJ、ゆうちょ、みずほ・・・等)
- 費用は1件5500円程度(兵庫県弁護士会の場合)
- 現時点において、開示したことは債務者に通知されていない運用であると思われる。
- 弁護士でないと開示の手続を行えない。
3.比較
このようにみると民事執行法の開示手続は全ての金融機関を対象に行うことができ、また弁護士に依頼しなくても手続きを行うことができる点について優位性があるということができます。
費用はどちらにせよそれほど変わりません。
但し、民事執行法の場合は、法208条2項により、金融機関が回答を行った事実が約1か月後に債務者に通知されますので、債権者がそれまでに差押を完了していないと、債務者に預金を引き出されて執行が困難になる可能性があります。
この点弁護士会照会を利用した場合債務者への通知が現時点では行われていないようですので、執行を急ぐ必要もないと思われます。
また、民事執行法による開示手続きの結果、ある金融機関から債務者の預金がないとか、ごく少額の預金情報の開示のみ得られた場合も、債務者に通知されてしまうので、ほかの金融機関に預金を有していても、通知された段階で預金を引き出される可能性もあります。
他方で、弁護士会照会においては、現時点においては、債権者に情報提供を行った事実が債務者に通知されていないようですので、密行性という観点からは、弁護士会照会を優先させるほうが良いように思われます。
但し、民事執行法の施行にともない、弁護士会照会に対する金融機関の対応も変化してくる可能性があるので、今後の流れを注視していく必要があると思われます。