コラム

支払が困難な状況下における破産直前の多額の借入と免責不許可事由

1破産申立直近の借入があるケースのご相談

最近、破産のご相談を受けておりますと、破産直前に多額の借金があり債務の支払が徐々に苦しくなっていた状況においてさらに新規に数百万円の借入を行い債務残高を急に増やされているケースが時折ございます。

借入が増大し自転車操業状態で生活を維持しつつも何とか返済を行いたいとのお気持ちは十分理解できますし、 相談を受けた弁護士としては、経済的に苦しんでおられる相談者の方のために何とか破産手続きにより債務整理のお手伝いをさせていただきたいと考えて相談に臨んでおります。

しかしながら、上記のようなケースは、破産法上の免責不許可事由(破産法252条1項4号の「浪費」、あるいは、5号の「詐術を用いて信用取引」)に該当する可能性があるため破産が認められない可能性があり、法的手続を採る際にリスクを伴なうことになります。

2裁判例紹介

この点に関し、一つ裁判例を紹介しますと、大阪高裁平成元年8月2日決定は、
「債務者は、破産宣告の日の一年前ころ、既に多数の債権者に対して少なくとも数百万円以上にのぼる多額の債務を負担し、その資力からして、更に借入れを継続してもこれらを返済できる見込みはなかったにもかかわらず、債権者らにこれを告げず、さも返済が可能であるかのごとき挙措態度をとって、このころ以降も多数の債権者から多数回にわたって合計少なくとも五〇〇万円以上の借入れを行ったことが認められ、債務者は破産宣告前一年内に破産原因たる事実あるにかかわらず信用取引により財産を取得したものであるとともに、破産の原因たる事実がないことを信ぜしめるため詐術を用いたといわざるを得ないから、本件は破産法252条1項5号に該当する事由がある」(一部改)と判示し、支払が困難になっていることを秘してさらに借入を行ったことを詐術による信用取引と判断し免責不許可事由に該当すると判断しました。

このように裁判所は、法律上の免責不許可事由に該当しストレートには免責を認めませんでした。
もっとも、法律上免責不許可事由に該当しても事情により裁判所が裁量で免責を認めることもありますが(これを裁量免責と言います)、同決定は裁量免責に関し、
(ア)破産者は生命保険会社の外交員として勤務するため服装等にある程度の出費を必要としたことが借金のきっかけとなったもので、生活が派手になったかたむきがあるとはいえ、特に目立った浪費は認められないこと、
(イ)その後の借入れはほとんどが従前の借入れの返済を目的としており、破産申立てに近接した時期の多額の借入れについても、借り入れた金員を返済以外の目的に費消したとは認めがたいこと、
(ウ)債務者が借入れにあたり自らの財産状態について積極的に債権者らをあざむくような言動をとったとは認められないこと、
(エ)本件の債権者らは、すべて、消費者金融を行っている規模の大きな金融機関であって、一般的にみて借入れの申込者の信用調査を行う能力を十分に有しているものであること、
(オ)右債権者らは、抗告人の免責の申立てにつきいずれも異議を申立てていないこと、
(カ)抗告人は、自己の過去の生活態度をよく反省しており、更生の意欲が十分うかがわれること、などから、免責不許可事由が存在するにかかわらず裁量により免責を認めてよい。(一部改)と判断しました。

破産直前に多額の借入がなされているケースにおいても上記の通り諸般の事情から悪質性が低いと判断された場合は、裁量免責が認められることも有りますが、悪質性が高いと判断された場合は裁量免責が認められないケースも多々あります。

免責に問題があるケースなどは、破産が困難と判断せざるを得ない場合は民事再生や任意整理を選択する場合もございます。
債務が増加して支払が困難になった場合、借りては返済してを繰り返しつつも何とか返済しようというお気持ちはわかりますが、却って事態を悪化させることもございますので、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

なお、債務増加以降の合理的説明の困難な破産申立直前の借入や浪費行為は慎まれるべきであることは上記裁判例等に照らしても当然といえますのでお気をつけください。