遺産分割や相続(相続放棄)のご相談をお受けしているときに生命保険について以下のようなご質問を良く頂きます。
代表的な事例を踏まえて一つずつご説明をしていきたいと思います。
Q1.生命保険は相続財産(遺産)になりますか?
次のようなケースです。
「父親が亡くなり相続人は2人の子(AさんとBさん)で遺産総額は3000万円でしたが、父親が自らを被保険者、受取人をBさんとして生命保険(保険金1000万円)を契約していました。そこでBさんは保険会社に連絡をして生命保険金1000万円を受け取りました。
その後、AさんとBさんの遺産分割の話し合いにおいて、Aさんは生命保険金1000万円は遺産であるから、生命保険金1000万円を現存する3000万円の遺産に含め遺産分割を行うべきと主張しています。生命保険を遺産に加えないといけないのでしょうか?」
結論
生命保険は基本的には相続財産(遺産)とはなりませんので、遺産分割の対象財産には含まれません。
(注意点)但し、被相続人が保険契約者兼受取人の保険で相続発生前に満期を迎えていた満期保険金や相続発生前に支払事由が生じていた医療保険の入通院院給付金などは相続財産(遺産)になります。
もっとも、この場合においても、保険金請求権は相続開始とともに各相続人に分割され各相続人が保険会社にそれぞれ保険金を請求できると考えられており、遺産ではあるものの、遺産分割の対象とはなりません。
解説
- 判例・通説においては、生命保険は被保険者の死亡などの保険事故の発生ともに生命保険請求権を「受取人」に帰属させる「第三者のためにする契約」(民法537条)と考えられており、生命保険金請求権は相続財産(遺産)ではなく受取人の固有財産と考えられています。
そのため、被相続人(亡くなった方)の生命保険において受取人が特定の方に指定されていた場合には、保険金請求権はその指定された受取人の固有の資産となり相続財産(遺産)には - では、応用系として保険金の受取人が上記のように特定の方ではなく単に「相続人」と指定されている場合はどうでしょうか?
この場合であっても裁判例は、生命保険は「保険金請求権が発生した時点で相続人である者」を受取人として締結した保険契約であり、保険金請求権は相続人の固有財産に該当し相続財産に含まないとしています(最高裁昭和40年2月2日裁判例)。そのため、受取人が「相続人」とされている場合でも相続財産にはあたりません。 - なお、被相続人が受取人を指定していなかった場合であっても、保険約款上「相続人を受取人とする」との規定がある場合は、やはり保険金請求権は相続人の固有財産として遺産にはならないとされています。
- 結局、生命保険は基本的に相続財産(遺産)に該当しないと考えられています。
- 但し、被相続人が保険契約者兼受取人の保険において、相続発生前に満期を迎えていた満期保険金や相続発生前に支払事由が生じていた医療保険の入通院院給付金は別です
このような場合は、相続が発生前する以前にすでに被相続人のもとで保険金請求権が発生しており、相続人は既に発生していた保険金請求権を引き継ぐだけで、相続人は保険金事故を原因として保険金請求権を得るわけではありません。
このようなケースの保険金請求権は相続人の固有の資産に該当せず相続財産に該当します。
Q2.生命保険を受け取った場合相続放棄ができなくなりますか?
ケースとしては次のようなケースです。
「母が亡くなり相続人は私のみです。母にめぼしい遺産はなく逆に1000万円の借金がありますが、母は私のために自らが契約者・被保険者、受取人を私として300万円の生命保険をかけてくれていました。
保険金300万円を受け取ったら、私は相続放棄ができなくなるのでしょうか?逆に、相続放棄をしてしまったらその後に保険金300万円を受け取れないでしょうか?」
結論
生命保険は基本的には遺産ではないので、生命保険を受け取っても相続放棄は可能です。その逆に相続放棄をしても生命保険金を受け取ることは可能です。
(注意点)但し、被相続人が保険契約者兼受取人の保険において相続発生前に満期を迎えていた満期保険金や相続発生前に支払事由が生じていた医療保険の入通院院給付金などは遺産ですので、受け取ると相続放棄をすることはできなくなりますし、相続放棄をしたらこれらの保険金を受け取ることはできませんのでご注意ください。
解説
Q1の解説の通り、生命保険の保険金請求権は、受取人の固有の財産であり遺産ではないと考えられています。そのため、生命保険を受け取っても相続放棄は可能ですし、その逆に相続放棄をしても生命保険を受け取ることができます。
但し、被相続人が保険契約者兼受取人の保険において相続発生前に満期を迎えていた満期保険金や相続発生前に支払事由が生じていた医療保険の入通院院給付金などはQ1の解説通り遺産ですので、受け取ると相続放棄をすることはできなくなります。
Q3.生命保険を受け取った相続人は遺産分割での取り分が少なくなりますか?生命保険はいわゆる「特別受益」に該当しますか?
ケースとしては次のようなケースです。
「父親が亡くなり相続人は2人の子(AさんとBさん)で遺産総額は3000万円でしたが、父親が自らを被保険者、受取人をBさんとして生命保険(保険金1000万円)を契約していました。そこでBさんは生命保険金1000万円を受け取りました。
AさんとBさんの遺産分割の話し合いのなかで、AさんはBさんが受け取った1000万円は「特別受益」に該当し、遺産分割において考慮して分割を行うべきと主張しています。具体的には、Aさんは、遺産3000万円に生命保険1000万円を加えて4000万円を遺産と考えて2分の1ずつ取得し、Aさんは2000万円(4000万円÷2)、Bさんは2000万円からすでに受け取った1000万円を除いた1000万円を遺産分割で取得するべきと言っています。」
結論
相続人が契約者・被保険者となっていた生命保険の保険金請求権は、基本的に特別受益に該当しません。そのため、上記事例では、実際に残った3000万円を分ければよく、Aさん、Bさんともに、遺産分割で1500万円ずつ取得することになります。
但し、保険金が遺産と比べて相当大きい場合には例外がありますのでご注意ください。
解説
この点に関する最高裁裁判例は、相続人が契約者・被保険者となっていた死亡生命保険の保険金請求権は、特別受益に該当しないのが原則であるが、保険金の受領によって保険金受取人である相続人とその他の相続人の間に生じる不公平が到底是認できないほど著しくなる場合は生命保険金が特別受益に該当する場合がある旨判断しています(最高裁平成16年10月29日裁判例)
具体的には、裁判例では、遺産が約1億円、生命保険金が約1億円のケースにおいて特別受益を認めました(最高裁平成16年10月29日裁判例)。
また、遺産が約6500万円で、生命保険金が約5000万円のケースにおいても特別受益が認められました(名古屋高結平成18年3月27日裁判例)。
他方で、遺産が約7000万円で、生命保険金が400万円のケースでは特別受益が否定されました(大阪家裁堺支部平成18年3月22日審判)
このように、生命保険は基本的に特別受益に当たらないが、極端に生命保険金が過大な場合には「特別受益」として遺産分割上考慮されることがあります。