コラム

某アーティストの未発表楽曲の無断放送と著作権

先日、某アーティスト(以下「A」とします。)の楽曲を個人的に提供された芸能レポーターが、当該楽曲をアーティストの承諾無く自身が出演するテレビ番組で放送したことが問題となった事件がありました。これは、著作権法上どのような問題があるのでしょうか?なお、おそらく楽曲はAが作詞作曲したものでAが著作者と思われるので以下その前提で記載します。

まず、楽曲の著作者であるAは、著作権法上の「著作者人格権」として、未発表の楽曲を公表するかあるいは公表しないかについて権利を有しています。これを「公表権」といいます(著作権法18条)。

また、楽曲の著作者であり著作権者であるAは、「著作権」として「公衆送信権」を有しています(著作権法23条)。「公衆送信権」とは、文字通り著作物を「公衆」に対して「送信」する権利であり、まさに楽曲をテレビ放送やラジオ放送でオンエアすることは著作者に認められた公衆送信権に該当します。

先日、芸能レポーターやテレビ局がAの楽曲を無断で放送したことは、Aの「公表権」及び「公衆送信権」を害した違法な行為ということが出来ます。Aは、法律的には、著作者人格権あるいは著作権侵害として芸能レポータやテレビ局に対して損害賠償請求等が可能です。

他方で、芸能レポーターがテレビ局に対して、Aの未発表楽曲を提供したことが「著作権」のひとつである「譲渡権」を侵害しないか問題になりますが、「譲渡権」は「公衆」に対してなされることが要件になっていますので「譲渡権」の侵害には当たらないと考えられます(著作権法26条の2)。

なお、上記の通り、「公表権」は「著作者人格権」として認められたものであり、「公衆送信権」は「著作権」として認められたものであり、「著作者人格権」と「著作権」の二つの概念が登場します。「著作者人格権」と「著作権」は何が異なるのでしょうか。

まず、「著作者人格権」は著作者のみに認められたもので、「公表権」のほかに「同一性保持権」(著作物を無断で改変されない権利)、「氏名表示権」(著作物を自己の著作物として表示するかしないかを決定する権利)が認められています。
著作者人格権は、著作者の著作物に対する精神的側面の利益を守るものであり、著作物の著作権が他者に譲渡された後も著作者に残存します。
そのため、例えば、著作権が譲渡されても、第三者が自己の楽曲を無承諾で改変してパロディーで使用した場合、著作者は、著作者人格権を行使して、第三者に対して損害賠償請求等が可能です。

他方、「著作権」は著作物の経済的側面にスポットをあてたもので、複製権(録音、録画、コピーする権利)、上演権などがあり、著作者はこれらの権利を行使して著作物の利用から経済的利益をえることが可能です。著作者はかかる「著作権」を第三者に対して譲渡することが可能です。

「著作者人格権」と「著作権」を有する者は必ずしも一致しておらず、例えばある楽曲を作詞作曲したアーティストが他者に著作権を譲渡しても著作者人格権は自らに残存しています。
そのため、音楽番組の歌い始めに作詞・作曲Xと書かれていても、著作者であるXが著作権を第三者に譲渡していれば、Xが「著作権」を有していない可能性もあります。

「著作権」と「著作者人格権」は上記のような違いが有るのです。
この点につき、今回の事件に関するいろいろなブログを拝見していると著作権と著作者人格権の違いを混同している記述が散見されましたので、念のため記載しました。