離婚の際に「年金分割」という制度があるのをご存じですか?
「年金分割」とは、婚姻中に夫婦が納めた年金保険料を、離婚時に分け合う制度のことです。専業主婦や相手より収入が低かった場合、年金分割をしておくと、将来年金を受け取る際に加算してもらえるため、離婚後の生活設計に大きく影響します。
年金分割制度を正しく理解することで、離婚後に後悔がないようにしておきましょう。
年金分割とは?
年金分割制度は、婚姻期間中に納めた厚生年金について、離婚時にいわば財産分与の一種として夫婦で分割する制度です。事実婚の場合も対象となります。
原則として、婚姻期間中に2人が納めた年金の金額を半分ずつ分け合います。
配偶者が将来受け取る厚生年金の1/2を受け取れると誤解している方が多いですが、将来の年金を分割するわけではありませんので、注意が必要です。
年金分割のメリットとデメリット
年金分割は、夫婦間の厚生年金保険料の納付額を公平にする制度であるため、基本的には、給与などでの収入が、配偶者よりも少ない方にメリットがある制度です。
特に婚姻期間が長く、専業主婦をしていた場合、年金分割を行わないと、将来の年金額が基礎年金のみとなり、金額が大きく減少する可能性があります。老後の生活を支えるためにも、年金分割の手続きを行うようにしましょう。
給与などの収入が少ない側の立場であれば、年金分割をすることによるデメリットは、ほぼ考えられません。
年金分割の請求期限
年金分割の請求を行うことができるのは、原則として、離婚した翌日から2年間です。しかし、以下のように期限が短縮または延長されるケースがあります。
短縮されるケース
離婚後に相手が死亡した場合は、相手側が死亡した日から起算して1ヶ月を超えると請求できなくなります。
延長されるケース
離婚した日の翌日から2年を超える前に、分割割合を定める調停、審議を申し立てた場合、結果が出るのが2年を過ぎていても、結果が出た日の翌日から6ヶ月間は、年金分割を請求することができます。
年金分割の種類
年金分割制度には①合意分割制度②3号分割制度の2種類があり、仕組みや分割割合の決め方に違いがあります。
国民年金加入者には3種類あります
①第1号被保険者=国民年金のみを自分で支払う人→自営業者(フリーランス)、フリーター、学生など
②第2号被保険者=国民年金と厚生年金を給与天引きで勤務先が支払っている人→会社員、公務員
③第3号被保険者=第2号被保険者の扶養に入り、自分では国民年金の支払をしない人→専業主婦(主夫)、年収が130万円を超えない人
合意分割 | 3号分割 | |
---|---|---|
制度開始日 | 平成19年4月1日 | 平成20年4月1日 |
請求条件 | ①婚姻期間中の厚生年金記録がある ②夫婦のお互いの合意もしくは裁判手続きにより分割する方法を決めている ③請求期限を過ぎていない 合意が必要なため、夫婦2人で請求を行う必要があります。 | ①婚姻中に厚生年金保険の記録がある ②2008年4月1日以降に離婚、または内縁関係を解消している ③2008年4月1日以降に、一方が第3号被保険者である期間がある ④請求期限を過ぎていない 婚姻中に3号被保険者であった方が対象です。相手の合意は必要なく、1人で請求できます。 |
按分割合 | 夫と妻の標準報酬総額の2分の1以下の範囲内で、合意で定める | 標準報酬総額の2分の1(法定) |
分割の対象期間 | 婚姻期間(施行日前の期間も含む) | 平成20年4月1日以後の第3号被保険者期間 |
年金分割の手続きの流れ
「合意分割」の手続きの流れ
合意分割の場合、2人の合意が必要です。
基本的に裁判所での審判などではよほどの事情がない限り50%での分割になりますので、これを前提に話をすることになりますが、どのように決めるかは合意で決めることが出来ますのでまずは2人で協議して合意を得てください。
合意に至らない場合は、裁判の手続きで分割内容を決めることになります。具体的には下記の流れになるかと思います。
①「年金分割のための情報通知書」を入手する
年金分割のための情報通知書には、分割できる範囲や対象となる期間などの情報が記されています。年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると、1週間ほどで郵送により届きます。
情報通知書を取得するために必要な書類(日本年金機構ホームページより)
- 請求者本人の基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
- 婚姻期間を明らかにすることができる書類(それぞれの戸籍謄本(全部事項証明書)または戸籍抄本(個人事項証明書)のいずれかの書類)
- 事実婚関係にある期間にかかる情報提供を請求する場合は、その事実を明らかにすることができる書類(住民票等)
②夫婦で分譲割合について話し合う
按分割合は合意できるのならどのような割合にしても良いというわけではなく、上限は50%と決まっています。合意後は、その内容を合意書または公正証書として残します。
③合意できなければ、調停や審判に進む
合意がまとまらない場合は、家庭裁判所へ調停の申し立てを行い、調停委員を介して按分割合について話し合います。調停が不成立の場合は、審判手続きに移行します。審判は、裁判所が事実を調査して裁判所の判断で按分割合を決定します。
④割合が決まったら、年金事務所で手続きを行う
年金事務所で年金分割を請求します。基本的には、離婚後、夫婦2人での手続きが必要です。手続きには、以下の書類が必要となります。
書類 | 概要 |
---|---|
標準報酬改定請求書 | 日本年金機構のホームページよりダウンロード |
年金手帳または基礎年金番号通知書 | 請求書に基礎年金番号を記入した場合 |
マイナンバーカード等 | 請求書にマイナンバーを記入した場合 |
婚姻期間等を明らかにできる書類 | 戸籍謄本等。当事者の一方が「除籍」と記載されたものが必要 |
2人が生存していることを証明できる書類 | 戸籍謄本 |
事実婚の関係を明らかにできる書類 | 住民票など |
年金分割及び割合を明らかにできる書類 | 合意書、公正証書、審判書の謄本、確定証明書、調停証書の謄本 |
本人確認書類 | 運転免許証、パスポートなど |
⑤「標準報酬改定通知書」を受け取る
年金事務所に必要書類を提出後、約2〜3週間ほどで夫婦双方に送付されます。
「3号分割」の手続きの流れ
第3号被保険者であった方が一人で手続きできます。離婚後、1人で年金事務所に行き、年金分割の請求手続きをします。
①離婚後に年金事務所で「標準報酬改定請求」を提出
3号分割では、2分の1ずつの割合と定められているため、年金分割および割合を明らかにする書類は必要ありません。必要書類は以下を参考にしてください。
書類 | 概要 |
---|---|
標準報酬改定請求書 | 日本年金機構のホームページよりダウンロード |
年金手帳または基礎年金番号通知書 | 請求書に基礎年金番号を記入した場合 |
マイナンバーカード等 | 請求書にマイナンバーを記入した場合 |
婚姻期間等を明らかにできる書類 | 戸籍謄本等。当事者の一方が「除籍」と記載されたものが必要 |
2人が生存していることを証明できる書類 | 戸籍謄本 |
事実上離婚状態にあることを明らかにできる書類 | 住民票など |
事実婚の関係を明らかにできる書類 | 住民票など |
②「標準報酬改定通知書」を受け取る
約2〜3週間ほどで手続きが完了し、郵送されます。
「合意分割」と「3号分割」どちらを利用すべき?
専業主婦(夫)の場合
婚姻期間中に専業主婦(夫)だった場合は、3号分割と合意分割の両方を利用することができます。2008年(平成20年)4月1日以後の専業主婦(夫)期間については3号分割が利用でき、それ以前は合意分割が利用できます。
フルタイム勤務の場合
夫婦が婚姻中、フルタイムで働いていた場合は、合意分割することになります。妻が夫よりも収入が多かった場合は、妻が夫へ年金分割するケースも出てきます。
扶養の範囲内でパート勤務の場合
配偶者の扶養の範囲内(パートなど)で働いていた場合も、第3️号被保険者に該当するため、3号分割と合意分割が利用できます。専業主婦(夫)の場合と同様に、2008年(平成20年)4月1日以降は3号分割、2008年(平成20年)3月までは合意分割となります。
ただし、扶養の範囲を超えてしまった期間は、3号分割の対象外となります。
年金分割でもらえる金額の計算例
専業主婦(夫)の場合
- 夫が会社員(厚生年金受給権者)で妻が専業主婦
- 夫の対象期間標準報酬額が6600万円
- 妻の対象期間標準報酬額が0円
- 按分割合が50%
まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
6600万円+0円=6600万円
次に、按分割合50%で、分割後の夫婦それぞれの対象期間標準報酬額を計算します。
夫:6600万円×50%=3300万円 妻:6600万円×50%=3300万円
最後に、夫婦それぞれの老齢厚生年金額を計算します。
3300万円×5.481÷1000=18万873円(年額)
※5.481は給付乗率で、老齢厚生年金を算出するための国で定められた係数で、年齢や婚姻期間によって変わります。
共働き夫婦の場合
- 夫と妻がともに会社員
- 夫の対象期間標準報酬額が6600万円
- 妻の対象期間標準報酬額が2200万円
- 按分割合が50%
まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
6600万円+2200万円=8800万円
次に、按分割合50%で、分割後の夫婦それぞれの対象期間標準報酬額を計算します。
夫:8800万円×50%=4400万円 妻:8800万円×50%=4400万円
最後に、夫婦それぞれの老齢厚生年金額を計算します。
4400万円×5.481÷1000=24万1164円(年額)
※5.481は給付乗率で、老齢厚生年金を算出するための国で定められた係数で、年齢や婚姻期間によって変わります。
年金分割は老後の暮らしに重要な問題です。分割の仕方が分からないなど、お困りの際には、弁護士にご相談ください。離婚問題に精通した弁護士であれば、年金分割についての的確なアドバイスはもちろん、代理人として手続きを行うことも可能です。
また、年金分割で調停や審判に移行した場合も、サポートさせていただきます。